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2015年4月18日

『最貧困女子』を読んで

なかなか凄い本に出会った。鈴木大介『最貧困女子』。私はこの歳になってそれなりに世の中が分かってきたつもりだったが、やっぱりちゃんと分かっていないんだ、と再認識した。以下、抜粋と感想。惨い話が苦手な人は、一部読むのを避ける方がいいかも知れない。

第1章 貧困女子とプア充女子

小島涼美さん (23歳) の場合

〔8ヶ月の家賃滞納による内容証明郵便について〕「家賃、どうしよう。内容証明ってなんですか? これが来たってことは、裁判にかけられるんですよね。警察が私のこと捜してて、指名手配なんですか? わたし、部屋出てくるときにバイト先が分かるもの置いてきたかもしれないんです。それ調べて、警察がバイト先に来るんですか? クレジットも滞納してるんです。警察来たら、間違いないですよね、クビになるのは」(冒頭から7%)

民事と刑事の違いも分かっていない。

〔小島さんにお金を貸した闇金男性〕「あんだけ落ちてれば風でも水でも (風俗業や水商売でも) 入れてあっさり回収とか考えてたんだけど、お菓子屋やりたいとかパティシエなりたいとか、ワケ分かんないですよ」(冒頭から 12%)

回収できるかできないか、の視点でだけ見られている。

冒頭から 13% の部分には、著者から小島さんに対して「アドバイスできることはたくさんあった」という内容が書かれている。ところが、

だが、こうした説明を分かりやすく図に書いて説明しても、どうにもこうにも小島さんの脳には言葉が染み込んでいかないようだった。〔中略〕いや、だから、そもそも生活保護を受けるには、兄たちの「妹を扶養したくありませんしその能力もありません」の意思の照会が必要なのだ。迷惑をかけることではない。そう言っても、小島さんには伝わらない。

著者の無力感が分かる。

永崎詠美さん (28歳) の場合

「たまに、肉が足りねぇなあ! ってなりますけどね。そういうときは、実家帰るか、友達と BBQ。田舎ですからでっかい公園行けば BBQ セット貸してくれるところ何ヶ所もあるし。んで、ついでに高校のときの同級生で肉屋で働いている男に頼んで、カルビ 2kg とか用意してもらう。これで人数で割りゃ1000円くらいだもん。だから、デカい車持っているやつの車の中は、必ず BBQ セット入ってますし、炭火おこせない男は駄目男ですね。」(冒頭から 19%)

炭火おこしが男の価値を決めるとか、そういう集団であるところが興味深い。

「だから、燃費いいワゴン車乗ってる男とか、結構みんなから人気出ますよね。〔中略〕そんであちこち行って、帰りにガソリン満タンにして、人数で割るわけですよ。8人乗ってリッター 15km とかなら、どんだけ走っても数百円でしょ?」(冒頭から 19%)

集団の中で節約 (経済的な余暇) が徹底しているのも興味深い。

永崎さんがガイドしてくれたように彼女らの周囲には、月に10万円で生活が可能で、さして不満も感じないための「デフレ包囲網」と言えるようなインフラが、完全に整備されている。地域全体が低所得だが、そこに大きく不満を感じないだけの経済圏が完成しているのだ。

こういう仕組みがないと成り立ちにくい、ということでもある。

「地元を捨てたら負け」「上京したら負け」という感覚もある。永崎さんが強調するのは、上京による「婚期逃し」のリスクだ。(冒頭から 20%)

こういう価値観はあってもいいと思う。これに対して都市部の住民が「向上心がない」などと口を挟んだりしようものなら、余計なお世話だと言われるだろう。

だが問題は、あの一目見て分かるほどの貧困状態にあった小島さんと、この充実している永崎さんたちが、ほぼ同じような所得層にあることだ。(冒頭から 22%)

そう、このこと、つまり「同じ所得層なら同じ生活様式だろう」とつい思ってしまうことこそ、世の中がよく分かっていない人間 (例えばこの本を読む前の私) が陥ってしまう先入観だ。いや、完全に同じだなどとは思っていなかったが、これほどの違いを意識していなかったのだ。

貧困女子と最貧困女子の違い

清原加奈さん (29歳) の場合

(北関東某地方都市、付近最大の都市部である JR M駅南口シネコン前で待ち合わせ)

加奈さんは、某大手出会い系サイトの「いますぐ系」の掲示板で、ほぼ毎日売春相手の募集を書き込む、いわば常連だった。〔中略〕つまり、毎日募集していても、彼女を「買う」男は稀ということだった。それでも書き込みを続ける彼女には、小学校に通わせる8歳と6歳の子供がいた。(冒頭から 25%)

子どもはどういう境遇にいるのだろうか。

泣き叫ぶ子供たちの前で (手首を) 切っちゃうこともある。それがどんなに子供にとってショックなことか分かっていても、そのときは耐えられないんだよね。未遂やっちゃったあとはもう、誤るだけ。駄目なママでごめん。ごめんねって」(冒頭から 29%)

これ、子ども達にはかなりきつい現場だろう。いたたまれない。

まず彼女はメンタルの問題以前に、いわゆる手続き事の一切を極端に苦手としていた。文字の読み書きができないわけではないが、行政の手続き上で出てくる言葉の意味がそもそも分からないし、説明しても理解ができない。〔中略〕そんなだから、離婚して籍を抜くにしても、健康保険やその他税金などの請求について市役所で事情を話して減免してもらうにしても、なんと「銀行で振込手続きをすること」すら、加奈さんにとっては大いなるハードルだった。18歳で取得した自動車免許も、更新手続きを怠って失効している。子供の小学校の入学手続きにしても、実質的に地域の民生委員が代行してくれたようだ。〔中略〕そして最悪なことに、こんな状況を何年も続けているにもかかわらず、いまいち彼女が危機感をもっていないのは、どういうことなのだ。(冒頭から 30%)

こういう様子を読むと、どういう教育があったらいいのだろう、と考え込んでしまう。

「だから私、決めてる。私、絶対に子供たち手放さないから。子供を施設にとられるぐらいなら、心中するって。それが最後だから、そこまでだから」(冒頭から 32%)

加奈さん自身が施設出身者なので、その寂しい思いを自分の子どもにさせたくない、とのこと。だが、どちらかというと、加奈さんの子ども達にとって加奈さんが必要な度合いより、加奈さんにとって子ども達が必要な度合いの方が大きいような気がする。

第3章 最貧困女と売春ワーク

〔筆者の以前の著作について〕読者からの反応は二極化した。児童福祉や女性貧困の支援の現場にいる読者からは、「普段接している少女らのリアルが分かった」「ぬるい。もっと酷い貧困のエピソードだってたくさんある」というもの。一方でそうした世界に縁のない読者からは「これは流石にファンタジーではないのか」「こんな貧困が日本にあるものなのか?」といったものだ。(冒頭から 38%)

ああ、そのとおり、日本社会はそれほど均質じゃないのだ。そして、多くの人は自分の身の周りしか見えていない。私もその一員。だからこそ、世の中を知っておきたい。

こうして少女らはまず地元で近しい境遇にある者同士で同年代コミュニティを作る。貧困の要因である3つの無縁で言えば、「家族の縁」(親の縁) が虐待などで断たれ、「制度の縁」が地元児童福祉の不整備などで彼女らの求める QOL を満たせなかった分、その寂しさや欠乏状態を「地域の縁」としての同年代コミュニティで補ったわけだ。〔中略〕そうしたコミュニティでは年長者の中に既に売春・援交行為をしている者が少なくない。(冒頭から 41%)

これが、彼女らの現状へ向かう経路なのだろう。

僕の取材した家出少女らの中には、親に加えられた「傷害の痕跡」を残した者も少なくなかった。普段は量の多い髪の毛に包まれて分からないが、触ってみると側頭部が大きく陥没している少女がいた。これは重い食器で殴られて頭蓋骨を陥没骨折し、その後に医者にかからなかった痕跡だ。「ジャンケンができない少女」というのもいた。彼女は親によって指を手の甲側にへし折られ、何年経ってもいくつかの指を握り込むことができないのだ。(冒頭から 43%)

この本を読んでいて読むのが一番辛い部分がここだった。

彼女らは、地元からあまり外に出たこともない、10代前半から中盤の少女らだ。何度か短期間の家出で都市部に出る経験を積んでいたとしても、最初はそれこそ「電車の切符の買い方がよく分からない」ということすらあるし、目的地にたどり着くための路線図の見方も分からなかったりする。誰もが少年少女時代にそうだったように、彼女らは「知らないことが当たり前」で「世の中には知らないことのほうが多い」子供に過ぎないのだ。〔中略〕「手持ちの現金を使ってどのように生活を維持するかは分からない。どうやって、どこに泊まれば補導されて地元に強制送還されないのか? 宿泊にはいくらお金がかかるの? バイトってどこで探すの? 履歴書ってなに書くの? どうしようどうしよう、何もかもが分からない。」(冒頭から 45%)

教わる機会がいないと、こういうことも分からないものなのだろうか。

フル代行業者とは何者か

通常セックスワーク周辺で「代行業者」と言えば、ワケアリで保証人が用意できなかったり風俗勤めを隠したい女性のために、賃貸保証を手配してくれたり、入居時の属性審査に必要なエビデンス (過去収入の証明) を捏造してくれたり、アリバイ業務 (架空法人から給与明細を出したり電話で勤務確認に応じる) をする業者のことだ。これに対し、フル代行業者と呼ばれる者たちは、健康保険証貸し、賃貸住宅における名義貸し、携帯電話やポケットワイファイなどの通信インフラのレンタル、未成年向けには年確ツール (風俗店面接時などに年齢確認を誤魔化すためのもの) のレンタルや融資 (闇金) 業務まで、いわば住所不定状態にある女性が求める全てをお膳立てしてくれるというのだ。(冒頭から 48%)

それだけ需要がある、ということなのだろう。

家出少女らのサクセスストーリー

まずは、そのまま最悪の貧困状態から脱出できるケースから見ていきたい。第1が「恋愛成就型」だ。援デリなど売春ワークの中に取り込まれた少女らの中から一足先に卒業するのは、まず容姿や性格的に「一緒に住める彼氏がすぐできる」少女らだった。〔中略〕第2に「独立起業型」がある。これはいわば「自らが援デリを経営できる知的水準をもっている」少女らだ。〔中略〕第3は「夜職デビュー型」だ。〔中略〕こうして路上生活者だった少女らは、「最貧困少女」から脱出していく。と、言えたらどんなに良かっただろうか……。多くの少女らを取材してきたが、こうした勝ち抜けをしていける少女らは、ほんの一握りに過ぎなかった。(冒頭から 53%)

そして抜け出せなかった少女は…

彼女らは18歳になっても売春ワークの周辺から抜け出せない。なぜなら彼女たちは「可愛くなかった」のだ。売春からの脱出先を合法の性風俗に求めようとも、そこでも問われるのは「顔の善し悪し、胸の大小、体重の重い軽い」。〔中略〕どれほど悲惨な生い立ちを抱えていようと、「デブで不細工で性格のゆがんだ少女」は、初めから彼らの救済対象にはならない。(冒頭から 54%)

これが実態のようだ。

取材対象 A, B, C

いやもう、原文からここに引用するのも気が引ける、3人の女性の取材の様子が書かれていた。70kg で虚言癖がある A、90kg で女子少年院経験者と思われる B、その2人が、パスポートがどうとか、アナル講習がどうとか、そういう話が続く。そして C については、

会話も困難 (基本的に「あ、はい」「わかりません」以外の言葉はない)。住民票という言葉の意味を理解できないようだった。障害のある女性を取材すれば会話が成立しないこともあるという可能性まで考えが及んでおらず、かなりショック。甘かった。よく考えれば当たり前の可能性なのだが。重度の知的障害? (冒頭から 57%)

とまで書かれていた。

あえて糾弾されることを覚悟で書きたい。知的障害をもつ女性の売春ワークについては前述した通りだが、彼女ら売春の中に埋没し続ける家出少女らもまた、そのほとんどが「3つの障害」=精神障害・発達障害・知的障害の当事者か、それを濃厚に感じさせるボーダーライン上にあった。障害という言葉がよろしくないなら、こう言い換えよう。彼女らは本当に、救いようがないほどに、面倒くさくて可愛らしくないのだ。(冒頭から 62%)

「あえて糾弾されることを覚悟で」書いてくれた著者に感謝したい。これまで私は、障害がある人は福祉の恩恵を受けるためにおとなしい人ばかりだろう、という勝手な先入観があった。だから、全然実態が見えていなかったのだ。著者が言い換えてくれたことで、頭の中で何かが繋がった気がする。街の中で時々 (というか稀に) 見かける、そういう若い女性。

第4章 最貧困女可視化

工藤愛理さん (24歳)

昼職の所得が少なくて、「やむを得ず」風俗に副収入を求めたのではない。むしろ彼女らから感じたのは、「デリヘルで稼げる自分への誇り」のようなものだ。〔中略〕デリヘル店長は、こうも言う。「あくまで、彼女たちは『選ばれた人たち』です。」〔中略〕彼女らの属する地元のグループの中では、夜職の兼業は「やれる容姿がある」証でもあり、感覚的には周囲から少し羨ましがられるような空気すらあるようなのだ。(冒頭から 66%)

地方だと、そういう価値観の集団まであるのか。これもびっくりした。

そしてこの後、加奈さんの様子を愛理さんに話して感想を聞く、という場面がある。愛理さんからはかなり辛辣な意見が出ていた。引用は省略。

すると店長は、「なんでユダヤ人のノーベル賞受賞者が多いのか知ってますか?」と、謎の回答。〔中略〕「あのですね。ユダヤ人と夜職の女は似てるんですよ。〔中略〕女にとって、最後まで奪われない財産ってなんですか? 女であることですよね。風俗でトップの子らがどのぐらいの努力してるか知ってますか? ファッション誌全部目ぇ通して、メイク勉強してエステしてジム通いして、そうやって女の子は『誰からも奪われない女力』を磨くんですよ。女が女を磨く理由は、それが保険だからです。そうやって頑張ってる子がいるから、店の側も必死にサポートできるんじゃないですか」(冒頭から 70%)

後ろから後頭部を殴られたような思いでこの部分を読んだ。風俗関係者もピンキリ、上はこうやって努力しているのだ。そうなると、そういうことができない風俗関係者との格差はどんどん広がっていくのだろう。

では、「頑張れない」女性派どうすればいいのか?
「知ったこっちゃないですけどね。〔中略〕誤解あるみたいなんで言っときますけど、この業界じゃ『ウリ (売春) は素人、風俗はプロ』ですからね。今週、面接多かったんですけど、だらしない身体で来られて『あたし NG プレイないんで』とか言われても困るんですよ。おまえに NG あったら客引くわ! 〔中略〕働いてる子はみんなそれぐらいのことはやってるんです。愛理なんて腹筋割れてますよ?」

口は悪いが、店長の言葉は真実なのだろう。

セックスワーカー 3分類

ここでは「サバイブ系」「ワーク系」「財布系」と分類されている。図もあって分かりやすいのだが、この部分はこの本の結論 (そしてウリ、最重要部分) だと思うので、引用はしないでおく。興味を持ったら、是非読んでみて欲しい。

「なんていうのかな、奉仕系っていうんですかね。アキバの男の人って露骨に『性に恵まれない人たち』じゃないですか。そういうのに対する奉仕系なんですよ。」〔中略〕高い職業意識に驚いた。(冒頭から 76%)

秋葉原の話。

彼女らの求めるもの

加賀麻衣さん (21歳) の場合

小学生時代に救いの手を

〔学童保育について〕「あと親が切れてる (虐待する) とき、夜遅くとかでも行ったら入れてくれて、泊めてくれるんだったら最高だった。実際 (小学) 3年のときとか、親に家から追い出されてて、学童行ったのね。閉まってるでしょ? 開いてたら良かったって、いまでも思う」(冒頭から 83%)

学童がそこまで網羅するのは難しいだろうが、需要はあるのだろう。

未成年がセックスワークに取り込まれた後

取材をした援デリ業者の中には、待機のワゴン車に「ウエトラ100本入りボックス」「個人輸入したキシロカインゼリー」を常備していたケースがあった。ウエトラ=ウエットトラストとは、スティック状の性器用潤滑ゼリー。キシロカインゼリーとは性器周辺にも使える局所麻酔薬だ。〔中略〕それでも対処できずに常に性器から出血が続き、タンポンとナプキンを頻繁に取り替えている少女もいた。〔中略〕麻酔薬で性器を麻痺させ、潤滑剤を使って挿入する。彼女らの性器に対する認識はあくまで「道具」だったのだ。(冒頭から 84%)

ここに書く言葉が見つからない。麻酔って…。麻酔なんて、基本的には医学部 (それもできれば麻酔科) 出身者が扱うことが望ましいものだろう。それを素人が売春目的で使うってのは…本当に言葉にならない。

あとがき

本音を言えばルポライターとしての僕の心情は、もう限界だ。(冒頭から 97%)

私も読んでいてきつかった。でも、いい本に出会ったと思っている。だからこそこんな長文の感想 blog 記事を書いたのだ。


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